あの頃の俺たち、めちゃくちゃイケてたよな。なのになんだこの体たらくは。俺たち、こんなじゃなかったよな。っていう思いはある程度、オッサンになると持つ思いだと思います。
現代の日本人でさえ、そうなのだから、救国の英雄、ジャンヌ・ダルクと共に戦った貴族達は余計にそうでしょう。今回紹介するのは、安彦良和「ジャンヌ」です。
舞台はフランス、百年戦争の終盤に発生した「プラグリーの乱」です。時系列的には、ジャンヌ・ダルクが処刑されたものの、戦況はフランスに優位。
更にフランス王シャルル7世が国内の中央集権化を推し進めたために反乱が起こったのが、今回の時代です。
反乱を起こした貴族達は、かつて、ジャンヌと共に戦ったものたちでした。
反乱の首謀者、王太子ルイ
主人公のエミールは、分けあって男子として育てられた女子でした。男装の麗人。しかもジャンヌと同じく、ロレーヌのヴォークールールの出身。王太子は毒づきます。
王太子の毒づきは当たっていて、ジャン ヌの頃よりも洗練された軍隊と、ジャンヌ(のイミテーション)という一種の歴史装置によって、あっけなく反乱は鎮圧されます。
かくして、歴史的には小さな出来事となってしまいますが、多くの葛藤を産み出しました。
例えば、ジャンヌ・ダルクの朋友。ジル・ドレは、ジャンヌの死後、怪しげな儀式にハマり、子供を殺しまくる異常殺人鬼になってしまいますが、主人公のエミールと出会い、極めて敬虔な癒しを得ます。
非常に悲しい叫びです。
ですが、あまりにも、精神性がジャンヌと似ているエミールを見て、癒されるのです。
しかし、ジャンヌ・ダルクのもう一人の朋友、アランソン公爵は、怒り続けます。
アランソン公爵とは最後まで和解できませんでした。
それでも、反乱の首謀者、王太子ルイも最後にはこうなります。
そして、物語は終わります。貶められた(本物の)ジャンヌも、名誉回復します。
安彦良和の漫画は大別して、SFもの「ガンダムthe Origin」。日本近現代史もの「虹色のトロツキー」「王道の狗」。日本古代もの「ナムジ」「神武」。そしてキリストもの「イエス」「我が名はネロ」「ジャンヌ」とあります。
いずれも、柔らかい線のタッチで、人間のどうしようもない弱さと、それに対する救いを描く、漫画界を代表する傑物であります。